代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(MASLD)
代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(MASLD)
MASLD(マスルド)とは、「Metabolic dysfunction-Associated Steatotic Liver Disease」の略で、日本語では「代謝機能障害関連脂肪性肝疾患」と呼びます。簡単に言うと、肝臓に脂肪が過剰にたまってしまった状態、いわゆる「脂肪肝」のことです。
健康な肝臓にも少量の脂肪は含まれていますが、肝臓全体の5%以上に脂肪がたまった状態を脂肪肝と呼びます。以前は「NAFLD(非アルコール性脂肪性肝疾患)」という名称が使われていましたが、2023年に国際的な学会の合意によってMASLDという新しい名称に変更されました。
MASLDは日本人の約20~30%に見られるとも言われており、最近の報告では男性の約40%、女性は約20%の有病率といわれており決して珍しい病気ではありません。「お酒をほとんど飲まないのに脂肪肝と言われた」という方も多く、飲酒とは関係なく、肥満・糖尿病・脂質異常症・高血圧などの生活習慣病と深く関わっているのが特徴です。
MASLDが厄介な点のひとつは、初期の段階ではほとんど自覚症状が出ないことです。肝臓は「沈黙の臓器」と呼ばれており、多少ダメージを受けても痛みや不快感を感じにくい臓器です。
これは、肝臓には痛みを感じる神経が少なく、炎症や脂肪沈着が起きていても信号を発しにくいためです。また、肝臓はもともと予備能力(ダメージを補う力)が高く、機能がある程度低下しても他の部分がカバーしてしまうため、症状として現れにくいのです。
「健診で肝臓の数値が少し高いと言われたけど、症状がないから大丈夫だろう」と放置してしまう方が多いのはこのためです。しかし、症状がないうちから着実に肝臓へのダメージが積み重なっていることがあります。健診での指摘を「たまたま引っかかっただけ」と思わず、早めに専門の医療機関を受診することが大切です。
MASLDは、以下のような生活習慣や体の状態が積み重なることで引き起こされます。
体に余分な脂肪がたまると、肝臓にも脂肪が蓄積されやすくなります。特におなか周りに脂肪がたまる「内臓脂肪型肥満」との関連が強いとされています。
血糖値をコントロールするインスリンの働きが悪くなると(インスリン抵抗性)、脂肪が肝臓に取り込まれやすくなります。2型糖尿病の方はMASLDを合併しやすいとされています。
血液中の中性脂肪が高い状態(高トリグリセリド血症)は、肝臓への脂肪蓄積と深く関係しています。
高血圧そのものが直接の原因ではありませんが、肥満・糖尿病・脂質異常症と重なることが多く、MASLDのリスクを高める要因のひとつとなっています。
食べすぎや、糖質(ご飯・パン・麺・甘いものなど)や脂質の過剰摂取は、肝臓への脂肪蓄積を促します。
体を動かす機会が少ないと、消費されなかったエネルギーが脂肪として蓄積されやすくなります。
極端な食事制限も、逆に肝臓への脂肪蓄積を引き起こすことがあります。
「お酒は飲まないのになぜ?」と疑問に思われる方も多いかもしれませんが、MASLDはアルコールと無関係に起こります。食生活・運動習慣・体質などが複合的に関わっている病気です。
MASLDの発見や経過観察において、血液検査は最初の重要な手がかりになります。健康診断でよく測定される以下の数値が、肝臓の状態を知るうえで役立ちます。
肝細胞がダメージを受けると血液中に漏れ出す酵素です。どちらかまたは両方が高い場合、肝臓に炎症や障害が起きている可能性があります。
肝臓や胆管の細胞がダメージを受けると上昇する酵素です。アルコールの影響を受けやすい数値ですが、MASLDでも上昇することがあります。
血液中の脂肪の量を示します。高い場合は肝臓への脂肪蓄積と関連していることがあります。
血糖のコントロール状態を示します。糖尿病やその予備群がMASLDと深く関係しているため、合わせて確認されます。
血液中の脂質のバランスを確認します。脂質異常症はMASLDのリスク要因のひとつです。
肝臓がんへの進行が心配な方では、がんの早期発見のために定期的に測定することがあります。
「健診でALTやAST、γ-GTPが少し高いと言われた」という方は、MASLDが背景にある可能性があります。数値が基準値をわずかに超えるだけでも、早めに専門医への相談をおすすめします。
MASLDの診断は、血液検査に加えて画像検査などを組み合わせて行われます。
肝機能・脂質・血糖値などを調べます。肝臓の炎症の程度や生活習慣病との関連を把握するために重要です。
お腹に超音波を当てて肝臓の状態を確認します。脂肪肝では肝臓が白っぽく明るく映る「輝度上昇」という特徴的な所見が見られます。痛みがなく体への負担が少ない検査で、脂肪肝の診断において最もよく使われる画像検査です。肝臓への脂肪化が20~30%以下の軽度ですとエコー検査だけではきちんとした評価が難しいことがあります。
肝臓の脂肪の量をより詳しく調べたり、腫瘍の有無を確認したりするために行われます。
特殊なプローブを使って超音波と振動がどのように伝わるかにより肝臓の脂肪量や硬さを測定し、肝硬変への進行度(線維化の程度)を調べます。エコーでも同定できない軽度の脂肪肝の診断に用いられることがあり、多少の振動は感じますが痛みもなく、短時間で行うことができる安心安全な検査です。
最新のガイドラインでも脂肪性肝疾患の診断に有用であり、検査を行うことを推奨されています。当院でも検査を行うことが可能です。
皮膚から細い針を刺して肝臓の組織を採取し、顕微鏡で詳しく調べる検査です。炎症や線維化の正確な程度を把握するために行われることがありますが、すべての方に必要なわけではありません。
MASLDの治療の中心は、生活習慣の改善です。現時点では脂肪肝に対して承認された特効薬はなく、食事・運動・体重管理が最も重要な治療手段となります。
「脂肪肝くらい大したことない」と思われがちですが、放置すると以下のように段階的に肝臓の病気が進行するリスクがあります。
肝臓に脂肪がたまっている状態。この段階では炎症はほとんどなく、生活習慣の改善で回復が期待できます。
脂肪がたまった肝臓に炎症が加わった状態です。「燃えている脂肪肝」とイメージするとわかりやすいかもしれません。遺伝的な要因や腸内細菌叢の変化によりMASLDの方の一部がこの段階へ進行するとされています。
炎症が長期間続くことで、肝臓の組織が線維化(硬くなること)し、肝臓の機能が著しく低下した状態です。肝硬変になると、元の状態に戻ることは難しくなります。
肝硬変からさらに進行した先に、肝臓がんが発生するリスクがあります。
慢性腎臓病や肝臓以外のがんのリスクも高めることが最新のガイドラインでも示されています。
「脂肪肝と言われてから何年も放置していた」という方が、気づいたときには肝硬変になっていたというケースも起こりえます。症状がないうちに対処することが、肝臓を守るうえで何より大切です。
健康診断でAST・ALT・γ-GTPなどの肝機能の数値に異常を指摘された方、または「脂肪肝の疑いがあります」と言われた方は、ぜひ一度専門の医療機関を受診してください。
健診の結果はあくまでスクリーニング(ふるい分け)であり、正確な状態を把握するためにはより詳しい検査が必要です。「少し高いだけだから来年また健診を受ければいい」と先延ばしにしている間にも、肝臓のダメージが進んでいることがあります。
また、肝機能の数値が「基準値内」であっても、腹部超音波検査で脂肪肝が見つかることがあります。数値だけで安心せず、気になる方は一度しっかり検査を受けることをおすすめします。
当院では、血液検査・腹部超音波検査・クリニックでの導入がまだ少ないフィブロスキャンをはじめとした検査を通じて、肝臓の状態を丁寧に評価し、一人ひとりに合った生活習慣改善のアドバイスや治療を提案いたします。
以下に当てはまる方は、ぜひ一度当院へご相談ください。
「症状がないから大丈夫」「そのうち改善するだろう」と思って放置してしまうのが、脂肪肝で最も多いパターンです。しかし、肝臓は症状が出にくいからこそ、定期的な検査と早めの対処が大切な臓器です。
当院では、患者さんの生活スタイルに合わせた無理のない改善方法を一緒に考えながら、継続的にサポートいたします。気になることがございましたら、どうぞお気軽にご相談ください。
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