自己免疫性肝炎
自己免疫性肝炎
自己免疫性肝炎とは、本来であれば細菌やウイルスなどの外敵から体を守るはずの免疫システムが、誤って自分自身の肝臓の細胞を攻撃してしまうことで、慢性的な炎症が起きる病気です。「自己免疫」とは、免疫が自分自身に向かってしまう状態のことを指します。ウイルスや飲酒が原因ではなく、体の免疫の誤作動によって引き起こされるという点が、B型・C型肝炎やアルコール性肝炎とは大きく異なります。「お酒も飲まないし、ウイルスにも感染していないのに、なぜ肝臓が悪いの?」という方の中に、自己免疫性肝炎が隠れていることがあります。
自己免疫性肝炎は日本では比較的まれな病気とされており、国の指定難病にも定められています。中高年の女性に多い傾向があり、特に50〜70代の女性に多く見られますが、男性や若い方にも発症することがあります。適切な治療を続けることで症状をコントロールし、日常生活を送ることが十分に期待できる病気です。難病指定ではありますが、認定制度の状況も年々変わってきておりますので、指定医の先生が申請に関しまして判断いたします。
自己免疫性肝炎は、症状が出にくいことが多く、健康診断で肝機能の異常を指摘されて初めて気づくというケースが少なくありません。肝臓は「沈黙の臓器」と呼ばれており、炎症が起きていても自覚症状として現れにくいのが特徴です。症状が現れる場合は、以下のようなものが見られることがあります。
全身の倦怠感・
疲れやすさ
「なんとなくだるい」「疲れが抜けない」という状態が続くことがあります。日常生活の中で疲れを感じやすくなった、という形で気づく方もいます。
食欲不振・吐き気
食欲がわかない、胃がむかむかするといった消化器症状が現れることがあります。
腹部の不快感・
右上腹部の違和感
肝臓のある右のわき腹あたりに、鈍い痛みや張った感じを覚えることがあります。
黄疸(おうだん)
皮膚や白目が黄色くなる状態です。肝臓の機能が大きく低下した場合に現れます。
発熱・関節痛
自己免疫性の病気に特有の症状として、微熱や関節の痛みが出ることがあります。
急性に発症した場合は、急激な倦怠感・黄疸・腹痛などが現れ、重症化するケースもあります。慢性型では、無症状のまま経過して気づいたときには肝硬変まで進行していることもあるため、早期発見・早期治療が非常に大切です。
自己免疫性肝炎の正確な原因は、まだ完全には解明されていません。しかし、現在考えられている主な要因は以下のとおりです。
免疫の誤作動
(自己免疫反応)
本来、免疫は体の中に入ってきた細菌・ウイルス・異物などを攻撃して排除する働きをしています。また体に必要な栄養素などは免疫反応が起こらないように抑制してバランスを保っています。自己免疫性肝炎では、制御性T細胞などの免疫のシステムが何らかの原因で誤作動を起こし、本来体に必要なものを「異物」と見なして攻撃してしまいます。なぜこのような誤作動が起きるのかは、ノーベル医学賞を受賞された制御性T細胞などの研究で徐々に明らかになりつつあります。
遺伝的な要因
自己免疫性肝炎は遺伝的な体質が関わっていると考えられており、特定の遺伝子型(HLA型)を持つ方に発症しやすい傾向があるとされています。家族に自己免疫性の病気(関節リウマチ・橋本病・シェーグレン症候群など)を持つ方がいる場合、リスクが高まる可能性があると言われています。
環境的なきっかけ
遺伝的な素因を持つ方が、ウイルス感染・薬剤・化学物質・強いストレスなどの環境的な刺激をきっかけに免疫の誤作動が引き起こされると考えられています。ただし、明確なきっかけが特定できないケースも多いです。
腸内環境
腸管免疫と云われるように、腸内細菌叢の乱れや、粘膜バリア機能の低下など肝臓の炎症の発生に関与している可能性があります。
他の自己免疫疾患との合併
自己免疫性肝炎は、橋本病(甲状腺の自己免疫疾患)・関節リウマチ・シェーグレン症候群・潰瘍性大腸炎などの他の自己免疫疾患を合併することがあります。これらの病気をお持ちの方は、定期的な肝機能チェックが重要です。
自己免疫性肝炎の発見や経過観察において、血液検査は非常に重要な役割を果たします。以下のような検査項目が、診断や治療効果の確認に活用されます。
肝細胞が攻撃されてダメージを受けると、これらの酵素が血液中に漏れ出して数値が上昇します。自己免疫性肝炎ではALTが特に高くなる傾向があります。治療の効果を見るうえでも重要な指標です。
免疫反応が活発になると上昇するタンパク質です。自己免疫性肝炎では特にIgGが高くなることが多く、診断の手がかりになります。「ガンマグロブリンが高い」と言われたことがある方は、自己免疫性肝炎の可能性を疑う必要があります。
免疫が自分自身の細胞を攻撃しているときに産生される「自己抗体」を調べます。抗核抗体(ANA)や抗平滑筋抗体(SMA)が陽性の場合、自己免疫性肝炎の強い根拠になります。
黄疸の程度を示す数値です。肝臓の機能が低下すると上昇します。
肝臓の合成能力(タンパク質を作る力)や血液を固める力を示します。数値が低下している場合は、肝臓の機能が大きく低下していることを意味します。
肝硬変まで進行している方では、肝臓がんの早期発見のために定期的に測定します。肝臓の炎症などがん以外でも上昇することがあります。
自己免疫性肝炎の診断は、血液検査・画像検査・組織検査を組み合わせて総合的に行われます。診断には国際的な基準(スコアリングシステム)が用いられます。
血液検査
肝機能・自己抗体(抗核抗体・抗平滑筋抗体など)・IgGなどを調べます。自己免疫性肝炎に特徴的な数値の変化を確認するための基本的な検査です。
腹部超音波検査
(エコー検査)
お腹に超音波を当てて、肝臓の大きさ・形・硬さ・脂肪性肝疾患・腫瘍の有無などを確認します。肝硬変への進行具合を把握するためにも定期的に行われます。
CT検査・MRI検査
肝臓の詳細な状態や、他の臓器への影響を調べるために行われます。腹部超音波検査で異常が疑われた場合に追加で実施されることがあります。
肝臓の硬さを測る検査
(フィブロスキャン)
超音波を使って肝臓の硬さを測定し、線維化(肝硬変への進行)の程度を非侵襲的(皮膚を傷つけずに)に調べます。
肝生検
(かんせいけん)
皮膚から細い針を刺して肝臓の組織を少量採取し、顕微鏡で詳しく調べる検査です。炎症の程度・線維化の進行具合・自己免疫性肝炎に特徴的な所見(形質細胞浸潤など)を確認するために行われます。検査に伴う一定のリスクがあるため血液検査の結果や画像診断などで診断が困難である場合に行われることがあります。
自己免疫性肝炎は、現時点では「完治させる」ことが難しい病気ですが、適切な治療によって炎症を抑え、肝硬変・肝臓がんへの進行を防ぐことが目標となります。多くの方が治療によって症状をコントロールしながら日常生活を送ることができます。
自己免疫性肝炎の治療の中心となる薬です。免疫の過剰な反応を抑えることで肝臓への攻撃を和らげ、炎症を鎮める効果があります。多くの場合、治療開始後に肝機能の数値が改善し、症状も落ち着いてきます。ただし、長期使用では骨粗しょう症・血糖値の上昇・感染症にかかりやすくなるといった副作用が出ることがあるため、定期的な経過観察が欠かせません。少量のステロイド治療から始めてお薬による反応を確認したり、年齢やその他の病気の状態、現在内服されているお薬の状況を確認し個人に応じた治療をご提案いたします。
ステロイド薬と組み合わせて使用されることが多い薬です。ステロイド薬の量を減らしながらも炎症を抑える効果を維持するために使われます。ステロイド薬だけでは効果が不十分な場合や、副作用が出た場合に使用されることもあります。
自己免疫性肝炎は、「症状が落ち着いているから」と自己判断で薬を減らしたり中断したりすると、再燃(炎症が再び起こること)するリスクが高くなります。その場合は肝炎が重症化することもありますので、調子がよい時期でも、必ず主治医の指示に従って治療を続けることが非常に大切です。
治療中・治療後も、定期的な血液検査・腹部超音波検査などで肝臓の状態を継続的に確認することが重要です。長期間の罹患(病気にかかっている期間)では肝臓がんのリスクも考慮し、定期的な画像検査や腫瘍マーカーの測定が行われます。
治療が遅れて肝硬変や肝不全まで進行した場合には、肝移植が検討されることもあります。早期発見・早期治療が肝臓を守るうえで何より重要です。
以下に当てはまる方は、ぜひ一度当院へご相談ください。
「症状がないから大丈夫」と思って放置してしまうと、気づかないうちに肝硬変へと進行してしまう可能性があります。自己免疫性肝炎は、早期に発見して適切な治療を開始することで、肝臓へのダメージを最小限に抑えることが期待できます。「もしかしたら…」と感じることがあれば、一人で悩まず、どうぞお気軽にご相談ください。当院では、患者さんの状態に合わせた丁寧な診察と継続的なサポートを心がけております。
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