原発性胆汁性胆管炎
原発性胆汁性胆管炎
原発性胆汁性胆管炎(PBC:Primary Biliary Cholangitis)とは、肝臓の中にある細い胆管(たんかん)が、免疫の誤作動によって慢性的に炎症を起こし、少しずつ破壊されていく病気です。胆管とは、肝臓で作られた胆汁(消化を助ける液体)を十二指腸へ運ぶための管のことです。この肝臓内部の管が傷んでいくことで胆汁の流れが悪くなり(胆汁うっ滞)、肝臓に胆汁がたまって炎症・線維化(硬化)が進んでいきます。放置すると、肝硬変や肝不全へと進行する可能性があります。
以前は「原発性胆汁性肝硬変」と呼ばれていましたが、早期発見・早期治療によって肝硬変まで進行しないケースが増えてきたことから、現在は「原発性胆汁性胆管炎」という名称が使われています。原発性胆汁性胆管炎は国の指定難病に定められており、中高年の女性(特に40〜60代)に多く見られる病気でしたが、最近は30代の方や男性にも増えてきています。日本での患者数は年々増加傾向にあり、健康診断での血液検査の普及によって無症状の段階で発見されるケースも増えています。難病指定ではありますが、認定制度の状況も年々変わってきておりますので、指定医の先生が申請に関しましてご判断いたします。
原発性胆汁性胆管炎は、早期の段階では自覚症状がほとんどなく、健康診断の血液検査で異常を指摘されて初めて気づく方が多い病気です。症状が現れる場合は、以下のようなものが見られます。
皮膚のかゆみ
(掻痒感)
原発性胆汁性胆管炎で最も多く見られる症状のひとつです。胆汁の成分が血液中にたまることで、全身がかゆくなります。特に夜間や入浴後に強くなることがあります。「原因不明のかゆみが続いている」という方の中に、原発性胆汁性胆管炎が隠れていることがあります。
全身の倦怠感・
疲れやすさ
「いつもだるい」「疲れが抜けない」という状態が続くことがあります。日常生活の質に影響することもあります。
黄疸(おうだん)
皮膚や白目が黄色くなる状態です。胆汁の流れが悪化して血液中にビリルビン(黄色い色素)がたまることで起こります。病気が進行すると現れやすくなります。
右上腹部の
不快感・鈍痛
肝臓のある右のわき腹あたりに違和感や鈍い痛みを感じることがあります。
口や目の乾燥
シェーグレン症候群(目や口が乾燥する自己免疫疾患)を合併しているケースがあり、涙や唾液が出にくくなることがあります。
関節の痛み
関節が痛む・こわばるといった症状が現れることがあります。
骨粗しょう症
胆汁の流れが悪くなることでカルシウムやビタミンDの吸収が低下し、骨がもろくなることがあります。
病気が進行して肝硬変になると、腹水(お腹に水がたまる)・むくみ・食道静脈瘤(食道の血管がふくらむ)などの症状が加わることがあります。
原発性胆汁性胆管炎の正確な原因はまだ完全には解明されていませんが、現在は自己免疫反応が主な原因と考えられています。
免疫の誤作動
(自己免疫反応)
本来、免疫は体の外から入ってきた細菌やウイルスを攻撃して体を守るシステムです。しかし原発性胆汁性胆管炎では、この免疫が誤って自分自身の胆管の細胞を攻撃してしまいます。その結果、胆管に慢性的な炎症が起き、少しずつ破壊されていきます。血液検査で「抗ミトコンドリア抗体(AMA)」という自己抗体が高い確率で陽性になるのが特徴で、この抗体が診断の重要な手がかりとなっています。
遺伝的な要因
遺伝的な体質が発症に関係していると考えられており、家族に原発性胆汁性胆管炎や他の自己免疫疾患(慢性甲状腺炎、橋本病・関節リウマチ・シェーグレン症候群など)をお持ちの方に発症リスクが高いとされています。
環境・ホルモンの影響
女性に圧倒的に多いことから、女性ホルモンとの関連が示唆されています。また、腸内細菌のバランスの乱れや、喫煙習慣・感染症・化学物質などの環境的な要因も関与している可能性があると研究されています。また胆管細胞の老化なども病態の進展に関わっていることが知られています。
他の自己免疫疾患
との合併
自己免疫性肝炎・シェーグレン症候群・甲状腺疾患(橋本病)・関節リウマチ・潰瘍性大腸炎などの自己免疫疾患を合併することがあります。これらの病気をお持ちの方は、定期的な肝機能のチェックも合わせて行うことが大切です。
原発性胆汁性胆管炎の発見と経過観察において、血液検査と画像検査はいずれも重要な役割を担っています。
胆管に炎症や障害があると、これらの数値が上昇します。原発性胆汁性胆管炎では特にALPが高くなるのが特徴で、診断の重要な手がかりとなります。
肝細胞のダメージを示す数値です。原発性胆汁性胆管炎では軽〜中等度の上昇が見られることが多いです。
原発性胆汁性胆管炎の患者さんの約90〜95%で陽性になる自己抗体です。
免疫反応が活発になると上昇するタンパク質です。原発性胆汁性胆管炎ではIgMが高くなる傾向があります。
黄疸の程度を示す数値です。病気の進行とともに上昇することがあります。
肝臓の合成機能(タンパク質を作る力)や血液を固める力を示します。肝硬変への進行度を把握するために測定されます。
腹部超音波検査
(エコー検査)
肝臓・胆嚢・胆管の状態を確認します。肝臓の大きさや表面の状態、脂肪性肝疾患、腫瘍の有無などを調べます。
CT検査・MRI検査
(MRCPなど)
硬化性胆管炎や胆石など他に原因となる胆管の異常がないかを調べたり、肝臓の状態をより精密に評価したりするために行われます。
原発性胆汁性胆管炎の診断は、血液検査・画像検査・必要に応じて組織検査を組み合わせて行われます。以下の3つのうち2つ以上が当てはまる場合に診断されることが多いです。
主な検査は以下のとおりです。
血液検査
肝機能・自己抗体(抗ミトコンドリア抗体など)・IgMなどを調べます。抗ミトコンドリア抗体が陽性かつALPが高い場合は、原発性胆汁性胆管炎が強く疑われます。
腹部超音波検査
(エコー検査)
肝臓・胆嚢・胆管の状態を確認します。胆管結石や他の胆管疾患との区別にも役立ちます。
MRI検査(MRCP)
胆管・膵管の状態を詳細に確認できる検査です。原発性硬化性胆管炎など、似た症状を引き起こす他の胆管疾患との鑑別(見分け)に役立ちます。
肝生検
(かんせいけん)
皮膚から細い針を刺して肝臓の組織を少量採取し、顕微鏡で詳しく調べる検査です。胆管の炎症・破壊・線維化の程度を確認し、病期(病気の進行段階)の正確な評価に役立ちます。検査に伴う一定のリスクがあり最近では積極的に行われなくなりましたが、抗ミトコンドリア抗体が陰性の場合や、診断が難しいケースで必要となる検査です。
骨密度検査
骨粗しょう症の合併を確認するために行われることがあります。
原発性胆汁性胆管炎は現時点では根本的に治す方法はありませんが、適切な治療によって病気の進行を遅らせ、症状をコントロールしながら日常生活を送ることが期待できます。
原発性胆汁性胆管炎の治療において、古くから初期の治療薬として選択される最も基本となる薬です。胆汁の流れをよくする働きがあり、肝臓への障害を軽減することが期待できます。多くの患者さんで肝機能の数値の改善が見られており、長期的な予後(病気の経過)を改善する効果があると報告されています。副作用が少なく飲みやすい薬で、長期にわたって服用し続けることが基本となります。
ウルソデオキシコール酸だけでは効果が十分でない場合に追加で使用される薬です。胆汁酸の受容体に働きかけて、胆汁うっ滞を改善する効果が期待されます。また脂質異常症の治療薬として用いられるベザフィブラートの併用が有効とされています。
皮膚のかゆみがつらい場合は、かゆみを和らげる薬(コレスチラミン・ナルフラフィン塩酸塩など)が使用されることがあります。入浴時のお湯の温度を高くしすぎない、刺激の少ない石けんを使う、保湿を心がけるといった日常生活での工夫も症状の緩和に役立ちます。
カルシウムやビタミンDの補充、骨粗しょう症の治療薬が必要になることがあります。定期的な骨密度検査も重要です。
治療中も定期的な血液検査・腹部超音波検査を行い、肝臓の状態を継続的に確認することが大切です。病気が進行して肝硬変・肝不全に至った場合には、肝移植が検討されることがあります。また、他の肝疾患よりはがんのリスクは低いといわれていますが、長期罹患の方では肝臓がんのリスクも考慮し、定期的な画像検査や腫瘍マーカーの測定が行われます。
以下に当てはまる方は、ぜひ一度当院へご相談ください。
「かゆみくらいで病院に行くのは大げさかな」と思われる方もいらっしゃいますが、原因不明の全身のかゆみは肝臓・胆管の病気のサインである可能性があります。早期に発見して治療を開始することで、肝臓へのダメージを最小限に抑えることが期待できます。一人で悩まず、気になる症状がございましたら、どうぞお気軽にご相談ください。当院では、患者さんの状態に合わせた丁寧な診察と継続的なサポートを心がけております。
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